3-01シナリオ:[経時的損失増]

 

1980年前後から、ポスト石英ファイバという事で、石英ファイバを置き換えるような超低損失ファイバ材料を探そうとか(1979)、光ファイバの両端にぶら下がる光回路の平面化を図ろうとか(1981)、次世代への探索テーマを開始します。その一方で、VAD技術を量産性のある製造技術に仕上げようということで銅線の線引き速度と同等の、1km/分位で線引きしたいという目標を掲げて、Darwinの海に乗り出し、それ自体は、 1986年の発表でけりをつけるのですが、19826月に、NTT茨城研究所で、一旦敷設した光ファイバケーブルに、原因不明の経時的損失増加があるという大問題が発見されます。

このスライドがそれです。このチョコッとした損失増が、ダーウインの海に隠れていた暗礁だったのです。

これは、言葉で表現すると、長期信頼性の課題いうこと以上のものは無いのですが、実態は、下手をすると光ファイバ線路そのものが地上の星に埋もれてしまいかねない大問題なんです。この現象に遭遇した茨城研究所は、事の重大さから、原因が分かるまで論文発表を控えようとしたのですが、海底ケーブルの研究でKDDと共同研究していた電線メーカもこれと同一の現象を発見していて、その論文発表があるということがわかり、茨城研究所も急遽発表戦略を変更します。論文発表媒体は、当然ながら、投稿から発行までの期間が最短(約2週間)のElectron.Lett.になります。この時期の、Electron.Lett.の掲載論文をチェックするとその足跡の一部が見えます。以後約2年半に渡って、大規模な原因究明と対策の研究が行われます。幸い原因は水素の浸入とドーパントとの相互作用であることが分かり、ケーブル製造時の対策で無事解決して大事には到りませんでしたが、緊張が走った一瞬でした。